『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』大木亜希子著 顔をあげ続けるたくましさ

 仕事は、金を稼ぐ手段であるが、それだけではない。自己実現、認められたという証、ひいては勝敗の結果を意味することもある。本書は元アイドルたち、中でもメンバー同士を競わせ、そこから生まれる物語や勝敗をエンターテイメントとして見せてきた「AKBグループ」に所属していたアイドルたちの、セカンドキャリアを追ったインタビュー本だ。

 アイドルというと、多くの少女が憧れる、選ばれし者の職業という印象が強い。そこから去った女性たちは、側から見ると負け組なのだろうか。勝敗に重きを置いていたAKBグループ所属ならなおさらそう見えるのかもしれない。しかし実際はどうなのか。彼女たちはアイドルであった過去、そしてそこから去ったという現実とどう向き合い、どう昇華して、今を生きているのか。元SDN48のメンバーで、現在フリーライターとして活動する大木亜希子が8人の元アイドルにインタビューを行なった。

 クリエイターにラジオ局員、保育士に販売員、広告代理店勤務にバーテンダー……。引退後の彼女たちはバラエティ豊かなその後を歩んでいる。

 子役からAKB48に、そして名古屋を拠点とするSKE48へ移籍した経歴を持つ佐藤すみれは、アイドル時代、環境の変化に戸惑いながらもそこでどう生き残るかを考え続けていたという。SKE48移籍直後は、周囲とのキャリアの違いや本家AKB48からの異動ということもあり、周囲の気遣いからかなり浮いてしまっていた。

 最初の頃は「名古屋の色に染まり平和に過ごそう」と努力したこともある。「よそ者」が生き残るため、媚びるという手段を選ぼうとしたのだ。

 しかし、その無理にも限界がくる。

 「私の『AKBカラー』は何をしても消せるものじゃないし。でも、そこを新たに切り開いていけば、私が先駆者になれるかもって思い直して」。

 そこから佐藤は「浮いている存在」であることを逆手に取り、いっそ「東京感満載」で行くことを決める。次第に佐藤は若いメンバーには東京で流行っているメイクを伝授し、センスに自信のない子には衣装選びの相談に乗るようになった。

 「名古屋は地方だし、東京と違って自分を客観的に見られない子が多いことに気づいて。そういう時に私が相談に乗ると、その子に自信がついたり、ファンの方にも感謝されることが何度かあって。」そこから彼女は「人や物をプロデュースすることが好きだ」という自身のこれまで気づくことのなかった特性を知る。

 そんな彼女は現在、クリエイターとして飲食店やメーカーとタッグを組んで商品開発などを行っている。事務所に所属することなく、個人事業主としてギャラの交渉やイベントのブッキング、会場との交渉なども佐藤自身が行っているという。

 彼女だけでなく、皆それぞれの「アイドルであった過去」にそれぞれの決着をつけて、次の一歩を踏み出している姿が印象的だ。

 AKBグループに所属できたことは、ラッキーだったのかもしれない。もちろんトップアイドルグループだから、生理が止まったり精神的に追い詰められたり、そらもう大変だったと思う。でもその一方で、夥しい人数が所属する、厳しい世界だからこそ、彼女達は全力で挑み、全力で自分の強みを考えられたんだろう。だからその環境は、苦しかったかもしれないけど、ある意味幸せなようにも思うのだ。だって、多くの人の目に触れる機会すら、ライバルの存在すら、切迫感すら、超える壁すら見つけられず、鳴かず飛ばずで終焉を迎えた元アイドルの方が、きっと沢山いるだろうから。

 何度も何度も顔を上げてきたであろう元アイドルたちの「今」に迫った本書。その諦めないたくましさは、私たちの背中を押してくれる。

(宝島社 1400円+税)=アリー・マントワネット

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