高校野球の季節がやってきた。全国高校野球選手権大会の各地方大会は、いよいよこれからが本番。既に沖縄や北海道では熱戦の火ぶたが切られているが、多くの地区では7月に入って負ければ終わりの勝負に突入する。
今年の注目度ナンバーワンは岩手・大船渡の佐々木朗希投手である。
高校生最速の163キロの快速球を記録し、同郷の先輩・大谷翔平(現大リーグ・エンゼルス)をもしのぐ逸材として、メジャーリーグのスカウトも視察にやって来るほどだ。
大船渡の初戦の相手は、7月15日の遠野緑峰に決まった。
2回戦からの登場になるが、それでも決勝(24日予定)進出を想定すると実に10日間で6試合を戦うことになる。
同校を率いる国保陽平監督は「投手は全部で5人登録した。コンディショニングによって起用法を考えたい」と語るが、場合によっては6連投も覚悟しなければならない。
何せ、春季県大会では佐々木を温存して1回戦敗退の苦い経験もあるからだ。
今年の高校野球界全体を見渡しても、いくつかの問題点が指摘されている。
一つは酷暑の中での大会運営。二つ目は今春のセンバツ大会でクローズアップされたサイン盗みの問題。そして、投手の球数制限を含む故障防止の問題だ。
中でも投手の球数制限は、これまでも数々の議論や指摘を受けながら遅々として進んでこなかった経緯がある。
高校野球だけでなく青少年とスポーツの在り方が問われ、甲子園大会の100年に及ぶ歴史にあって、過去と決別するほどの変革を迫られていると言えるだろう。
日本高野連では、今年に入って「高校野球200年構想」を発表した。
「普及」「振興」「育成」などの柱となる指針の中に「けがの予防」という項目がある。これを受けて4月には「投手の障害予防に関する有識者会議」が新たに発足した。
昨年、新潟県高野連では県内の大会で100球以上の球数を制限する決定を行った。
これは「県単位で行うものではない」とする批判もあって撤回されたが、待ったなしの時期に来ていることを各方面が認識する契機となったことも事実だ。
既に米国などでは18歳未満の青少年に対して1日に30~50球投げたら1日の休養を義務化するなど、故障から子どもを守る取り決めが行われている。
やみくもに投球数を増やせば、故障に直結することは医学上でも立証されているのだ。
それでも、改革が進まない大きな要因に高校野球がある。
昨年、夏の甲子園大会で「金足農旋風」がファンの注目を浴びたのは記憶に新しい。
秋田の県立校を決勝まで導いたのはエースの吉田輝星投手(現日本ハム)だ。
決勝まで6試合の球数は881球、これに県大会で636球だから実に2カ月足らずで1500球以上を投げたことになる。
もし、吉田がここまで投げられなければ、果たして「偉業」は達成できたか?
これは極端な例だが、予選出場チームには部員が10人前後のチームも珍しくない。
私立の強豪校なら複数のエース級を用意できるが、多くのチームは100球でエースが降板すると試合にならないのもまた事実だ。
「腕が折れても、高校で完全燃焼したい」と考える選手もいる。だから、この問題は難しい。
しかし、日本高野連は青少年の健全な育成と故障の防止を行動目標に掲げる以上、何らかの規制を設ける時期に来ている。
そんな折、鈴木大地スポーツ庁長官が日刊スポーツのインタビューに答えてユニークな高校野球改革論を提言している。
(1)プロ球団にユースチームを設置する
(2)センバツを都市対抗方式にする
サッカーがユースチームで人材を育成するように、高校で野球をやるのか、ユースでプロの指導を受けるのか、選択の幅を広げる。
都市対抗が補強選手制度を設けるように、都道府県の代表校に補強選手を加えれば複数投手の登板が可能になり、酷使が防げる。
これらが要旨だが、どうとらえるか。
既に野球の国際大会では7回制や同点タイブレーク方式が導入されている。変革の足音はそこまで来ている。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。