「リレーコラム」NBA、W杯、五輪出場 日本バスケ界に相次ぐ歴史的出来事

フロリダ州立大戦でプレーするゴンザガ大の八村塁=アナハイム(USA TODAY・ロイター=共同)

 応援用の楽器が鳴り響き、会場は満員。周囲を見渡すと、立ち見の観客もびっしりと場内を埋めていた。

 ヒジャブを着用した一人の女性客は、特段気にする様子もなく記者の隣のプレス席にどっしりと腰を下ろして声援を送っていた。

 今年2月にテヘランで行われたバスケットボール男子ワールドカップ(W杯)アジア2次予選のイラン戦は、これまで日本では経験したことがない雰囲気だった。

 ただ、日本は八村塁(米ゴンザガ大)とNBAデビューを果たした渡辺雄太(グリズリーズ)の2大エースを所属チームとの兼ね合いで欠いてもたくましかった。

 完全アウェーの雰囲気に飲み込まれるどころか、集中力が研ぎ澄まされていた。精度の高いプレーを続け、試合が進むにつれて会場は静かになっていった。

 隣の女性客のため息は徐々に深くなり、難敵イラン戦に勝ったことで1試合を残してはいたが、W杯予選突破を確信した。

 振り返ってみると、どん底に沈んでいたちょうど1年前から、日本の変貌ぶりには驚かされる。

 きっかけとなったのは2018年6月29日だ。当時日本は初戦から4連敗で敗退の瀬戸際におり、この日は世界ランキング10位のオーストラリアとの一戦を控えていた。

 その後米ゴンザガ大のエースへと成長する八村とBリーグ初代得点王で日本国籍を取得したファジーカス・ニック(川崎)の初参戦に期待は膨らんだが、相手はNBA選手を複数擁する強敵だった。

 敗退時を想定した記事を執筆し終えてから試合会場へと向かっていた。

 だが、ふたを開けてみればいい意味で期待は裏切られ、1点差で歴史的勝利を挙げ、ここから怒濤の快進撃が始まった。

 W杯出場への激動の道のりが示すように、今の日本バスケット界には数年前までは予想できなかった大きな出来事が続いて起きている。

 昨年10月には渡辺が田臥勇太(栃木)以来となる日本人2人目のNBAデビューを果たし、今年3月の国際バスケットボール連盟理事会では男子にも44年ぶりの出場となる東京五輪開催国枠付与が決まった。

 周囲の見る目も変わり、敵地でカタールに勝ってW杯出場を決めた日本代表が帰国すると、空港には多くの観客が待ち構えていた。

 アウェーで台湾戦に勝利して1次予選突破を果たして帰国した際にはメディアも少数だっただけに、雲泥の差である。

 取材を通して、注目を集めるためには強くなって勝つことが大事な要素の一つと実感した。

 だからこそ人気、実力ともに発展途上の日本にとってW杯での戦いが重要になってくる。

 世界ランキング17位のトルコ、同24位のチェコ、同1位の米国はいずれも強国だ。

 NBAのスター選手で構成する米国の強さは別格としても、残る2国とどのような戦いができるか。

 Bリーグ大河正明チェアマンの「楽しみで怖いけれど、いい経験に終わらせちゃいけない」との言葉には同感だ。

 日本の世界ランキングは48位。ただランキングは過去数年までさかのぼった国際試合の結果も反映される。

 その点を踏まえると、現在の力量とランキングを比較した際に、急激に強化が進んだ日本ほどその二つの間に開きがある国はないと思う。日本が快勝したイランが同27位であることもそれを証明している。

 W杯では目覚ましい飛躍を遂げ、NBAドラフト会議での指名が有力視される八村も参戦予定だ。

 さらなる人気拡大のためにも、日本には世界を驚かせる戦いをみせてもらいたい。

 W杯は8月31日から9月15日まで中国で開催される。

鈴木 敦史(すずき・あつし)プロフィル

2005年共同通信入社。大阪運動部を経て、広島支局で広島カープを取材。10年12月から本社運動部で陸上、バスケットボール、大相撲を担当。北海道出身。

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