<大ヒット盤> さだまさし『新自分風土記II~まほろば篇~』 大作映画を観るように、情景が深く刻まれる

さだまさし『新自分風土記II~まほろば篇~』

 デビュー45周年を記念したセルフカバー集。2作同時発売のうち、このまほろば篇は人の温もりをより感じさせる楽曲が多い気がした。

 CDの全11曲はギター中心の為、原曲との違いが大きいものもある。例えば、原曲ではドラマティックな歌唱や編曲が際立つ『償い』は、ポルトガル・ギターとアコーディオンによって、人が人を赦す部分がよく伝わるし、原曲ではアフリカ太鼓のリズムが印象的な『風に立つライオン』も弾き語りでより自然な風景が見える。何より、少しかれて優しくなったさだの声が良い。カラオケ機の採点は不利かもしれないが、人間の審査なら断然今の方に軍配が上がるだろう。

 圧巻は、8曲目『生生流転』から『修二会(しゅにえ)』『まほろば』(この曲のみフルバンド+弦楽器)の3連打。生への切なる願いや、燃えたぎる魂、そして悠久の古都と儚い約束の対比など、大作映画を3本観たような気分になるほど、それぞれの情景が胸に深く刻まれた。

 DVDは、さだが本作と関連する奈良の名所を訪れ、各地で4曲を歌唱した映像を収録。博識ゆえのナレーションは上質な紀行番組のようだ。付属のセルフライナーノーツも達筆。本作を多面的に堪能すれば、頑張っている人に温かい視線を送れるはず。

(ビクター・CD+DVD初回盤4000円+税)=臼井孝

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