<隠れた名盤> 野口五郎『これが愛と言えるように』 細やかな心情、熱い想いがひしひしと伝わる

野口五郎『これが愛と言えるように』

 約4年ぶりとなるシングル。近年は、盟友・西城秀樹との深い絆を強く感じさせるメディア出演が多いが、自身の作品でもその細やかな心情や熱い想いがひしひしと伝わってくる。

 表題曲は、『また君に恋してる』の五郎版とも呼ぶべき12年の『僕をまだ愛せるなら』の続編であろう美しい純愛バラード(いずれも作詞は松井五郎、作曲は森正明)。切なくも一途な想いがあふれる五郎の歌声だからこそ、「抱きしめる腕に託した願い」や「夢はあといくつ見られるかな」など、何歳になっても恋心はあるものだと彼に教えられる。

 カップリングは、伊勢正三の93年作品『涙憶』のカバー。原曲は、ハスキーな伊勢の歌声ゆえに中高年の哀愁が漂っているのに対し、五郎版は、キーが高く繊細な歌声ゆえに、相手への想いを伝えるべきかと逡巡している二人の様子がひしひしと伝わってくる。

 プロフィールで彼が63歳と知って今更ながら驚いた。きっと見えない所で凄まじい努力をされているのだろうが、それでも本作を聴くと、自分の時間や年齢のせいにする癖を少しでも減らせるはず。

(エイベックス・1500円+税)=臼井孝

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