若き巨匠・石井裕也が、手塚治虫文化賞新生賞に輝く安藤ゆきの同名漫画を映画化。石井監督にとって初となる“少女漫画原作”で、これまでも世界を絶妙のカリカチュアによって切り取る手腕には定評があったが、今回はより振り切った演出で新境地を見せる。
地味で運動も勉強もできないけど、全ての人を分け隔てなく愛することのできる“人が大好き”な高校生の町田くんが、人嫌いの同級生・猪原さんと出会ったことで、生まれて初めての“分からない感情”と向き合うことに…。そんな子供のように純粋な町田くんの初恋模様を描いているが、そこにスラップスティック・コメディー『地下鉄のザジ』とファンタジー『赤い風船』というフランスを代表する2本の子供映画の要素が溶け合い、見たこともないフレンチテイストの少女漫画原作映画に仕上がっている。
石井監督の前作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』は紛れもない傑作だったし、代表作に挙げられることの多い『舟を編む』だって悪い出来ではなかったけれど、初期の『川の底からこんにちは』などで見せた日本人離れしたコメディーセンスは封印されていた。それを少女漫画のキラキラした世界観の中で解放してしまえる石井裕也は、やっぱり天才。否、改めてその天才ぶりを思い知らされ、これぞ彼の本領が発揮された最高傑作だと溜飲を下げる思いである。★★★★★(外山真也)
監督:石井裕也
出演:細田佳央太、関水渚
6月7日(金)から全国公開