『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』 アート好き必見のドキュメンタリー

(C) Belvedere, Wien

 東京都美術館で開催中の「クリムト展 ウィーンと日本1900」のタイアップ企画として日本公開されるが、原題『Klimt & Schiele: Eros and Psyche』が示す通り、ここではクリムトとシーレが同じ比重で扱われている。1918年に前後してスペイン風邪が原因で亡くなった二人の没後100年記念として製作されたドキュメンタリー映画なのだ。

 実は二人は似て非なる芸術家だった。ときに師弟関係と称され、共に若い女性の裸体を好んで描いてはいるが、当時ヨーロッパ文化の中心だったウィーンで“ウィーン分離派”を主導したクリムトが、華やかで装飾的な耽美主義の作風だったのに対し、“人間の孤独”をテーマに描き続けたシーレは、むしろ世紀末の影の側面に敏感で、分離派よりも20世紀の表現主義に近い画家だったという。女性美術史家が、当時はポルノ画家と揶揄されたシーレを「本当の意味で女性のセクシャリティーを解放した画家」と評する場面が感動的。

 また、冒頭にシーレの死が再現ドラマのような演出で用意されていたり、メタファーに満ちた示唆的なカットが散りばめられていたり…。フロイトやマーラー、建築家のワーグナーらが引用され、当時の世相や空気を浮かび上がらせる構成もうまい。言い換えれば、クリムトもシーレも分離派もしっかり深掘りされているのだ。アートをファッションとして楽しむ日本人にとっては、必見のドキュメンタリーだろう。★★★★☆(外山真也)

監督:ミシェル・マリー

日本語ナレーション:柄本佑

6月8日(土)から全国順次公開

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