「サッカーコラム」連勝のJ1札幌と連敗の神戸、対照的な両チームを分けるものとは

札幌―神戸 後半、同点ゴールを決め駆けだす札幌・進藤(右から2人目)=札幌ドーム

 北国は大型連休と、桜の季節が重なる地域が多い。時間に追われることなくお花見を楽しめるので、1年で最も楽しい時期かもしれない。冬が長いことも相まって、北の人々は春の暖かさの訪れに、よりありがたみを感じる傾向がある。

 その大型連休中の5月4日に行われたJ1第10節で札幌のサポーターたちは、さらなる喜びを感じたはずだ。J1におけるクラブ記録となる4連勝は、今シーズン初の逆転勝利。さらに、その勝ち方がとても鮮やかだったからだ。

 札幌ドームでの一戦は、試合前から内容が面白くなりそうな予感はあった。ホームの札幌、アウェーの神戸ともに丁寧にパスをつなぐ攻撃的なサッカーを指向している。そんなチーム同士の戦いは、ゴール前での攻防が多くなる可能性が高かったからだ。

 アンドレス・イニエスタ、ルーカス・ポドルスキが故障でメンバー外。神戸は前節からスターティングメンバ―が5人代わり、田中順也、郷家友太、橋本和、宮大樹の4人が今シーズン初先発した。本来の理想からはほど遠いメンバー構成ながらも、開始3分に決定機を迎える。古橋亨梧の右からクロスをダビド・ビジャがダイレクトでシュート。GKク・ソンユンの好セーブに防がれたが、1点になっていてもおかしくない場面だった。

 一方、ホームの札幌はここまで得点王争いでトップとなる7ゴールを挙げているアンデルソンロペスが、前節の磐田戦で左膝靭帯(じんたい)を負傷し長期離脱が決定。代わりに荒野拓馬が先発した。それでも攻撃的姿勢は変わらず、開始5分にはチャナティップがGK金承奎(キム・スンギュ)を急襲するミドルシュートを放つなど、終始ゴールのにおいを漂わせた。

 試合が動いたのは後半17分、プロ生活をスタートした古巣を相手に神戸の右サイドバック西大伍が見せた攻め上がりからだった。ペナルティーエリアに侵入し、DFの背後を取る、いわゆる「裏街道」を通す見事なドリブル。相対していたCB福森晃斗はたまらず、西を倒しPKを献上。ビジャがこのチャンスを冷静に決めて先制点を奪った。

 今季の札幌は、先制点を奪われると弱い。何せ4戦全敗なのだ。しかし、この日は違った。3万4591人。札幌ドームを埋め尽くしたサポーターの強力な後押しが、札幌に力を与え続けた。そして、失点を許したわずか6分後の後半23分、同点に追いつく。それは間違いなく今シーズンを代表するような美しいゴールだった。右サイドから福森がゴール前に入れたボールは、DFダンクレーに防がれた。しかし、そのヘディングでのクリアボールが神戸FW田中の背中に当たってこぼれた浮き球を、進藤亮佑が見事なオーバーヘッドでゴール右に突き刺した。

 あまりにも美しいゴール。思い出したのはドイツの名門シャルケのレジェンド、クラウス・フィッシャーだ。当時の西ドイツ代表でも活躍した点取り屋はクロスをオーバーヘッドでゴールにたたき込む名手だった。俊敏な反応と空間認知能力、そして勇気。進藤の見事に宙を舞う姿は、久しぶりにかつての伝説的ストライカーを思い出させてくれた。

 観衆を熱狂させ、チームメートの心を奮い立たせるに十分な1点。進藤の今シーズン3点目は、札幌イレブンの攻める気持ちをさらに加速させた。後半30分、右サイドを攻め込んだ宮沢裕樹のクロスが神戸の守備網に引っ掛かる。だが、再びボールを拾った宮沢からパスを受けた同サイドの早坂良太がセンタリングを上げる。これに鈴木武蔵が頭から飛び込み、ヘディングで決勝点を決めた。

 自身7試合ぶりとなる今シーズンの4点目。見事だったのは、シュートを打ちたいエリアを空ける鈴木の巧みな動きだ。宮沢がクロスを放つタイミングで一度ゴール前に飛び込んだが、その後に細かな修正を見せた。そして、早川のボールに対しマークするダンクレーの視界から一度消え、再びニアサイドに飛び出した動きはセオリー通りだった。しかし、動き直しをすべての選手が忠実に行うかというと、そうともいえない。その意味で現在25歳の鈴木は、日に日に点取り屋らしくなってきている。

 アディショナルタイムの古橋のシュートを、GK具聖潤(ク・ソンユン)が右足で好セーブ。ハラハラしたからこそ、札幌の勝利の喜びはより大きくなったのではないだろうか。見ていて楽しい試合だった。

 一方、4連敗の札幌とは対照的に泥沼の5連敗にはまり込んだ神戸は、チームというよりはクラブとして大きな問題を抱えている気がする。チームとしてもクラブとしても良い方向に向かっている札幌と比較すると、余計にチグハグ感が否めない。

 何より心配なのは、イニエスタ、ビジャ、ポドルスキを並べても神戸が結果を得られていない事だ。いくら資金をつぎ込んでも世界的スターがプレーして満足と思える環境を与えられなければ、彼らは早急に去っていく。鳥栖のフェルナンド・トーレスにもいえるが、日本は難しいということになれば、Jリーグに来るスーパースターはいなくなってしまうだろう。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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