『あの人に会いに』穂村弘著 創作の秘密を尋ねる

 人気歌人が若いころから仰ぎ見てきた9人の表現者を訪ね、創作の秘密に迫った。出版社PR誌上の連載をまとめた対談集で、連載中のタイトルは「穂村弘の、よくわからないけど、あきらかにすごい人」。

 「よくわからない」というのがポイントで、著者だけでなく表現者自身も創作の源泉がどこにあるか、実はよくわかっていない。

 谷川俊太郎、横尾忠則、萩尾望都の3人がそれぞれ「集合的無意識」という言葉を使って、個人の経験を超えた人類普遍の領域にアクセスすることを示唆している。「植物が土のなかに根をはりめぐらせ、養分を吸い上げるイメージです。日本語という土壌に根を下ろしているという感覚が、ぼくには常にあります」(谷川)。

 自分に執着しない点も共通している。「写真は他力本願なもんだからさぁ」(荒木経惟)、「自分のものさしでもなく(略)『神様のものさし』みたいなものが見えたときにピッタリはまるんです」(佐藤雅彦)、「ぼくはぼくのようになれたっていうような、偉そうなものじゃないんです」(甲本ヒロト)。

 ほかに宇野亜喜良、高野文子、吉田戦車が登場する。彼らから純度の高い言葉を引き出しているのは、自らも表現者である著者が「自分もあなたのように世界の向こう岸に行きたいんです」というあふれる思いを抱いて相対しているからだ。

 行き方はよくわからないが、それぞれが「向こう岸」を目指した。みんな無我夢中だった。そのことだけはわかっている。

(毎日新聞出版 1600円+税)=片岡義博

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