「リレーコラム」トリプルアクセルで世界に衝撃 フィギュア五輪女王破った16歳、紀平梨花

GPファイナル初出場で優勝し、表彰式で笑顔を見せる紀平梨花。左は2位のアリーナ・ザギトワ=バンクーバー(共同)

 伊藤みどり、浅田真央の系譜を継ぐ16歳のスケーターが女子フィギュアスケート界を進化させようとしている。

 今季シニアデビューした紀平梨花(関大KFSC)が、瞬く間に新ヒロインとして注目を浴びている。

 グランプリ(GP)シリーズデビュー戦となった11月上旬のNHK杯で平昌冬季五輪4位の宮原知子(関大)を破って日本勢初となるデビュー戦Vを果たすと、2週間後のフランス杯も優勝。12月上旬に行われたシリーズ上位6選手が集うGPファイナルではショートプログラム(SP)でルール改正後の世界最高得点「82.51」をマークした。

 フリーでもトップの得点をたたき出して平昌五輪女王のアリーナ・ザギトワ(ロシア)に完勝し、日本勢では2005年の浅田以来となる初出場優勝を飾った。

 もはや言うまでもないが、紀平の最大の魅力はトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)だ。

 女子では国際スケート連盟公認大会で、1988年に伊藤みどりが初めて成功させてから浅田らわずかな成功者しかおらず、紀平が7人目だ。

 初めて国際舞台で成功させたのは、2016年9月のジュニアGPシリーズ。そのとき、指導する浜田美栄コーチは海外の関係者から称賛とともにこう強く言い添えられた。「絶対妥協しないでほしい。時代を前に進めてほしい」

 ここ数年のフィギュア女子では飛び抜けた大技はなく、5種類の3回転ジャンプを組み合わせた似通ったジャンプ構成を、いかに表現力豊かにミスなく滑るかが勝負だった。

 ザギトワは昨季までのルールでは認められていた基礎点が1.1倍になる演技後半に全てのジャンプを盛り込んだ構成で圧倒的な技術点を稼いでいたが、今季から認められるのはSPで1本、フリーでは7本中3本までだ。

 スポーツとしての技術の進化。そんな期待に紀平は見事に応えた。

 2017年12月のジュニアグランプリ(GP)ファイナルのフリーで世界初となるトリプルアクセル―3回転トーループの連続ジャンプを鮮やかに成功。そして今季、精度はさらに高まり、NHK杯ではフリーで世界初の大技を含め、2度のトリプルアクセルを決めて、世界に衝撃を与えた。

 この2シーズン失敗しても決して逃げずに試合で跳び続けてきたことで胆力もついた。

 GPファイナルではフリー冒頭でトリプルアクセルを失敗しながらも、直後に再び挑んで成功させ、優勝を引き寄せた。

 普段は他人の演技をあまり深くは語らない宇野昌磨(トヨタ自動車)が「あれだけ1個目のアクセルが回らずに失敗したのに、2個目であれだけきれいに決めるというのが…まずはよく挑戦したなと思うし、あれはすごかった」とうなったほどだ。

 また、こうも言う。「紀平選手のすごいのは、トリプルアクセルだけじゃないところ。それ以外の部分も完璧にこなす。個人的な意見だが、表現で僕にないものを持っている。見ていてすごいなと思える表現をしている。僕は一つ一つのポーズがきれいじゃないので、雰囲気でなんとなくやっている感じなんですけど、一つ一つのポーズがちゃんと写真で撮れるようなきれいなポーズ。練習でも一緒に滑っていたら、よく見ることがある」

 平昌五輪銀メダリストの言葉がその潜在能力の高さを物語る。

 ロシアには複数の4回転ジャンプを跳ぶジュニア選手が控える。1、2年後には同じ舞台で戦う相手を見据え、紀平も4回転の練習に昨年から取り組んできている。

 4年後の北京五輪へ向けて新たな時代に入ったフィギュア女子が、どんな進化を遂げていくのか。その動向を注視していきたい。

藤原 慎也(ふじわら・しんや)プロフィル

全国紙の記者を経て、2014年に共同通信入社。名古屋運動部でプロ野球中日、フィギュアスケートを取材。16年12月から本社運動部でフィギュアスケート、体操、テニスなどを担当。大阪府出身。

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