『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』花田菜々子著 本人いたって大真面目

 二十代の頃、沖縄旅行にいった。最終日はきっと寂しくなるから、賑やかなところに泊まりたいと言って、ゲストハウスを予約。最終日の午後、その宿に到着するやいなや、スタッフらしき若者に「こんにちは!あだ名教えて?」と言われた。

 宿泊者全員に挨拶され、晩ごはんは全員で宿で作って食べることになり、そこで生い立ちが語られた。

「引きこもりで」「不登校で」「リストカットがやめられなくて」……。なにこの状況。さっきまでお互いをあだ名で呼び合っていたのになにこの地獄。

 無論翌朝、逃げるように宿をあとにした。二度と行かない。

 なんでこんなことを思い出したかというと、本書だ。タイトルのとおり出会い系サイトで出会った人たちに本を紹介する書店員の、言うなれば青春冒険小説である。

 夫に別れを告げて家を飛び出した菜々子は宿無し生活に突入する。仕事にも行き詰まっている彼女は、「もっと知らない世界を知りたい。広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい」と、(いたって大真面目に)出会い系サイトに登録。個性を出そうと、プロフィール欄に「今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」と明記。そこから菜々子の二度とない、強烈な、ヘンテコな、刺激ありまくりの日々が始まった。

 出会い系と言ってもエロ目的のそれではなく、起業のための人脈作りや飲み友達を探しているなど利用者の目的は多様だ。しかし結局引いちゃうエロ物件。ほかにも自作ポエムを拝読し、虚言癖に付き合い、手品を見せられ、女子と励まし合う。そうしていくうちに菜々子は、自分自身を取り戻していく。

 冒頭の沖縄旅行に戻りたい。他者と繋がる術を、「自分を語る」ことしか持ち合わせていなかった若者たち。本である必要はないけど、著者でいう本のようなものが彼女たちにあれば、もっと健全に、自分を傷つけることなく関係を築けていけたのかなとふと思った。どうか彼女たちが幸せであるようにとか、なんか全然関係ないことを思い出した。それはさておき、はー面白かった!ずるい!

(河出書房新社 1300円+税)=アリー・マントワネット

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