『メタモルフォーゼの縁側 1』鶴谷香央理著 おばあちゃんとBL

 蝉の声、縁側から吹く風、カレーの匂い、畳の部屋。そしてそこに置かれた、男の子と男の子のちょっとエッチな薄い本。それは、おばあちゃんが出会った「BL」の世界だ。

 3年前に夫を亡くした市野井雪は、ある日たまたま立ち寄った駅前の書店で、たまたまある一冊を手に取る。それはBL、つまり男性同士の恋愛を描いた漫画。雪は、はじめこそ驚くものの、すぐに熱中する。それからというもの、雪は書店に足繁く通いだす。そして17歳の書店員うららとの交流が始まった。

 「ずっと誰かと漫画のお話したかったの」。

かつて『ベルサイユのばら』や『エースをねらえ!』に心踊らせていた女性は、友達ができたことを無邪気に喜ぶ。そしてうらら自身も、学校や家、誰にもBLが好きだと言えなかったが、語り合える友達を探していた。それぞれの孤独が少しずつ、淡い色に変わっていく。その優しい展開に心があたたまる。

 巻の最後、雪とうららは初めて同人誌イベントに足を踏み入れる。お目当ての作家はコメダ優。雪が初めて手にした漫画家が、同人誌を手売りすることを知ったからだ。

 イベント会場に着き、目の前に広がる光景を見て、高揚感に包まれながら雪は思う。「ごめんなさいあなた。私ばっかり楽しくて」……。

 戻らない時間と、もう会えない人と、そして始まる新しい日々。きらきらとかがやく切なさが胸を締め付ける一冊だ。

(KADOKAWA 780円+税)=アリー・マントワネット

© 一般社団法人共同通信社