『カミングアウト』砂川秀樹著 関係を紡ぎ直す決断

 本書で「カミングアウト」とは自分がゲイやレズビアンなど性的マイノリティーであることを誰かに打ち明けることを指す。伝える側と伝えられる側の双方にどんな苦悩と変化があるのか。性に関する基本知識や関連データを紹介しながら、著者を含めて当事者が語る8つの「カミングアウトストーリー」が差し挟まれる。

 ゲイだったことを弟から伝えられた兄は、通りの真ん中でボロボロ涙を流しながら「気づいてあげられなくてごめんな」と何度も謝り、「ずーっとこれからは、俺はお前の味方だからな」と語った。

 娘がレズビアンだと分かり「目の前が真っ暗になった」母親もいれば、息子にゲイだと告げられたことで自らも「自分は自分らしくあってよかったんだ」という開放感を覚えた母親もいる。

 当事者の体験談が胸を打つのは、それぞれ自らの実存を賭け、真摯に相手と向き合っているからだ。告白する時、それまでとは違う自分として相手の前に立つ。拒絶されるかもしれない。それでも大事な人だからこそ本当の自分を受け入れてほしい――そんな葛藤と覚悟を経てなされるカミングアウトを著者は「自分の意志によって関係を紡ぎ直していく行為」と位置づける。

 性的少数者に限ったことではない。「異文化」や「他者」に向き合う際、私たちは似た試練に立たされる。それは互いの価値観を変え、絆を深める機会になりうる。本書が「カミングアウトは社会に対する贈り物」という言葉で結ばれている理由だ。

(朝日新書 760円+税)=片岡義博

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