『ビューティフル・デイ』 スタイリッシュで端正な映像美に圧倒される

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 イギリスの女性監督リン・ラムジーの、『少年は残酷な弓を射る』以来6年ぶりの新作だ。1999年の初長編『ボクと空と麦畑』から本作を含めてわずか4本と寡作なのは、妥協を許さない製作スタンスゆえだろう。今回も揺るぎない世界観と、スタイリッシュで端正なのにどこか生々しくもある映像美に圧倒される。

 主人公は、ホアキン・フェニックス扮する元軍人で人捜しのプロ。政治家から売春組織に囚われた十代の娘を連れ戻してほしいと依頼され、娼館に乗り込んで少女を救出するのだが…。

 純真な少年少女に“性”が絡む話はラムジーが得意とするところだが、今回はハードボイルドな犯罪劇(つまりジャンルもの)。一見『レオン』を思わせる設定ながら、オヤジと少女が心に傷を抱えた者同士ゆえに心を通じ合わせる点で、むしろ『タクシードライバー』に近いといえる。それをスコセッシやリュック・ベッソンのような“オヤジ”ではなく女性監督が撮っていることで、2人の関係性から“性”の匂いが払拭され、少女を性=大人の欲望から守る守護者という主人公の役回りが明確になっている。

 オヤジと少女、ハードボイルドな犯罪劇…設定だけみるとありがちなのに、見たこともない新鮮な印象を受けるのは、性を扱っていながら性がない、性が“聖”に転じたような世界観ゆえだろう。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:リン・ラムジー

出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ

6月1日(金)から全国公開

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