『こぐまのケーキ屋さん』カメントツ著 子供の頃からやり直してるような

 おい、こぐま×ケーキだと……? かわいい×かわいい地獄にイライラが止まらないのは更年期の予兆か。

 そんな憤りなど知る由もなく、世間では大ブームらしい。カメントツ氏といえば、いくら読んでも頭が良くならないサイトとしておなじみ「オモコロ」にてルポマンガを発表している。時に怪しい自己啓発セミナーに行ったり、時に自分の精子を肉眼で見たり、時に編集部から「次の企画は腸内洗浄」と命じられ「アナルかアナらないか」のケンカが勃発したりと、かなーり過激なマンガを描いている。そんなどサブカルの極みである彼の新刊が、信じられないかもしれないが本書である。

 説明するまでもないが、こぐまが営むケーキ屋と、そこに通う青年の物語だ。作るケーキは絶品だが、ケーキ以外のことを何も知らないこぐまと、そんなこぐまに世界をひとつひとつ教え、のちに「てんいんさん」としてケーキ屋を支えるようになる青年の日々。

 100円玉で支払いをしたら「ぎんのおかね」に目を輝かせ、紙幣で払うとガッカリされる。カカオをおかかと間違えたり、新商品の「プリンアラモード」ができたのに、「ぷりんあらもろ…ぷいんあやらろろ…」言えないからってボツにする。まだ見ぬサンタクロースが「こわい」と泣き、風邪を引いたと言ったら「しにますか?」と泣く。

 雪が降ったら雪合戦をして遊び、お部屋で温かい飲み物をふたりで飲む。

 福笑いをしたら「せかいでいちばんおもしろいです…」と笑いすぎて呼吸困難になり、お正月が終わったら、またお正月が来てほしいと泣く……。

 あれだけバカにしていたのに、心が震えている自分がいた。この本を通して、かつて世界が驚きに溢れていたことを思い出す。こぐまの色鮮やかな感情に触れ、もう一度、子供の頃から大人になるまでをひとつひとつ、やり直してるみたいな気持ちになるのだ。

 友達を元気づけるために描き始めたというこのマンガ。美しいばかりの世界ではないって知っているはずなのに、世界の美しさに胸が熱くなる。

(小学館 880円+税)=アリー・マントワネット

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