ムロツヨシに聞く、吉岡里帆への助言を詳しく 怒られる行動力

映画『ボス・ベイビー』で声優としても活躍のムロツヨシ(撮影:安藤由華)

「セリフも少ないし、自分は存在感がない。どうすればいいでしょうか?」

 吉岡里帆は、かつて映画『幕が上がる』(2015年)に高校演劇部の部員役の1人として出演した際、教師役で出演していたムロツヨシに相談したそうだ。ムロツヨシは「こういう現場でも、できることはまだたくさんある。ガッツが足りない」といった返事をし、吉岡はとても勇気づけられたという。このエピソードは、吉岡が今年1月、主演連続ドラマの記者発表の席などで披露していた。

 ただ、せっかくなら、ムロツヨシの助言の中身をもっと知りたい。大ヒット中の米アニメ映画『ボス・ベイビー』日本語吹き替え版で、中身はオッサンな赤ん坊の声を演じた彼に取材の機会があり、直接、助言の件を尋ねてみた。

【“景色”でも諦めない】

▽記者:個性を発揮できるほどの役ではない現場にいたという吉岡さんに、具体的にはどんなアドバイスをされたんですか?

★ムロツヨシ:学園ものって生徒役が多いじゃないですか。吉岡はメインではない役だったんで、連ドラだったらもう少し映る時があると思うんですけど、映画だとメインの子たちが映った後ろ、言い方悪いですけど、“景色”の役をやんなきゃいけない。“その他部員たち”の芝居をやんなくちゃいけない。カメラはどうしてもメインの子たちに向いてますから、他の子たちはやる気もなくなってきやすい。それは当然しょうがないことで、「まあそこに居ればいいな」って思うのが普通なんです。

 だけど、吉岡が悩んでいたんですよね。「どうやったらいい役、いい仕事ができますか?」って言うから、「今いるこの仕事で、やれることはまだあるから。新しいいい役をつかむ前に、今の役でもっと、後ろの景色でも、邪魔になってもいいから勇気を持ってやって、邪魔になって怒られるか、実はメインの子たちの隣に居ても邪魔にならないような仕事の仕方、やり方はあるんじゃないかな」ということを言ったんだと思います。

▽記者:ムロさんはまだ売れる前、そうやっていつも現場に?

★ムロツヨシ:僕はそれで何度も怒られてきてますから(笑)。「お願いだから普通にやってくれ」って言われたことがありますよ。「普通」って何だろうって思いながらね。

▽記者:でも、怒られつつも、それが結果になっていったってことですよね。

★ムロツヨシ:全員が全員、そういうやり方をしたら、多分成立しないと思うんですよね。ただ僕は、たまたま周りにそういう人がいなかったっていうのと、やる勇気です。あと、自分がやりたい芝居をするためには、経験の数が必要で、頂いた現場の中で、経験値を稼がなきゃいけないから、3年後、5年後の自分のためにやったところもあると思います。それがいい結果になるかどうかは分からないから、実験でもあって。「これが悪かったら次からはやめよう」と思いながらやっていると、「これはやり方、考え方をちょっと変えればうまくいくんじゃないか」っていう手応えだったり、「これは本当にだめだ」って、失敗した空しさだったり、あります。悲しい思いも持ちながら、また違う現場でやっていかなきゃいけなくて、その繰り返しではありましたよね。

 でも、怒られないように「ただの景色でいればいいや」って諦めた人になんか、誰も目を向けてくれないですから。それはいつまでたってもいい役は来ないよな、っていう話ですよね、吉岡にしたのは。今から何かできることを探している人のほうが、「次はあいつと仕事してぇな」って思う人は増えるよねっていう。

【レンズだけ見ていた】

▽記者:ムロさんのそうした経験は、具体的にはいつ頃のことですか?

★ムロツヨシ:自分が動かなきゃだめだと思ったのが、『交渉人 真下正義』(2005年)という映画です。地下鉄の事件の話で、運行の司令部みたいなところに捜査部屋が作られて、それがガラス部屋だから、後ろが抜けて映るんですよ。ずーっと何日も後ろの景色をやっていましたね。そこで身に付けたのが「とにかく映る」。カメラはやっぱり動くんですよね、毎回カットが変わるたびにカメラ位置が変わりますけど、カメラのレンズが見える所に居れば映る。だからとにかく僕はレンズが見える所に行く。ステディカメラでカメラが移動撮影する時なんて、テストの段階で僕はカメラしか見てない時もありましたよ(笑)。カメラが動くと、レンズが見える所に僕はこうやって(そろそろと)移動するんです。

▽記者:(笑)それはまたかなり怒られそうですね、それでもやり続けたんですか?

★ムロツヨシ:結構やり続けましたよ。映って自分に何ができるかをまだ知らない時期なんですよ。僕には「まず映る」という経験が必要だったんで、行動力、行動力です(笑)。

【本広監督にムロアピール】

▽記者:本広克行監督に居酒屋で遭遇して、何としても自分を覚えてもらおうと、名刺を渡したり、「ムロツヨシはそう思いますね」「ムロツヨシは・・・」と、しつこく自分の名前を言いながら話したり、その後も「ムロ鍋」を振る舞ったりというのは、「行動力」を出した中でも初期ですよね。(※ムロツヨシ活躍の突破口となる、本広監督の映画『サマータイムマシン・ブルース』が公開されたのは2005年)

★ムロツヨシ:そうです。あれがもう本当に自分が変わった後の行動ですね。昔は「役者は仕事が来るのを待つもんだ」とか思ってたんですけど、実際に仕事が来なかったわけですから、それまでの7年か8年間かな。じゃあもう8年間の結果を受け入れて、今までのやり方では駄目だということでやり方を変える。自分がどういう芝居をしたいかといったら、もちろんね、いい役で、自分が楽しく緊張感を持って芝居したい。そう思ったら、まず役をもらわなきゃいけない。役をもらった時に、自分が思ういい芝居をするためにはもっと経験が必要だ、ということはいろんな経験値を増やさなければいけない、経験値を増やすにはどうすればいいか、呼んでもらわなきゃいけない、呼んでもらうためにはどうすればいいか、名前を覚えてもらわなきゃいけない、じゃあ名前を連呼しようっていう単純な逆算ですね。やれる事まで落とし込んでいって、そこから思い描いた階段を上り詰めるようなイメージですかね。

【役者で食べていけるか】

▽記者:今現在は、ご自身のロードマップの中での現在地をどう捉えてますか?

★ムロツヨシ:冷静に俯瞰で見ようと思っても難しいですね。見ようとはしています。ちょっと前までは、「役者として食えるようになりたい」っていうのが本当に大きな目標でしたので、それが3年連続で達成できた時に、ちょっとした満足感が出てきてしまった時期はありました。今は実は、それよりも危機感の方が強いですね。これが続く訳がないということを肌で分かるというか。今一応ご飯は食べられますけども、多分、来月も再来月もまだ僕はご飯は食べれるとは思うんですけども。これが続かないだろうなっていうのは何となく分かるんですよ、確信として。何かをしていないと、何かを変えないと、もしくは何かを変えない勇気を持たないと。だからその選択に迷ってはいますけど、以前にちょっと満足しちゃったのを何とか消せるようにはなりました。

【大河の主役】

▽記者:今年、ムロさんは42歳にして(テレビでの活躍を表彰する)エランドール賞新人賞を受賞されて、授賞式で「5年後の大河の主役は僕です」と言って笑わせましたが、ムロさんが言うとしゃれにならない感じを私は受けます。ムロさんは何かを声に出して、それを実現していっちゃうイメージがある。そこは意識的にやってますでしょ?

★ムロツヨシ:そうですね、言霊じゃないですけど、目標を明確にすれば自分の行動もはっきりするので、1人で考え込んで「目標はこれだ」と思うよりも、思ったら言うっていうのは確かにあるかもしれないですね。だって、これで本当に大河主役が成ったら、どうですか、面白いですよね。思い続ければね、まずは候補に入ることが大事ですから。NHKの方々が、大河やります、主役誰にしますかって時に、「一応候補にムロは入れといてやるか」みたいなことになれば、一個、しめたもんじゃないですか。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第111回=共同通信記者)

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