『定年入門』高橋秀実著 「第二の人生」は十人十色

 冒頭、え?と目が点になった。日本に定年を定めた法律はなく、年齢を理由にクビにする定年制は先進各国では一般的に禁じられているそうだ。知ってましたか?

 既に日本人の4人に1人強が65歳以上。進む高齢化で今後、世間は定年後の人だらけになる。さぁどうする? ということで、本書は「第二の人生」を送る人々の生き方を伝えるルポなのだが、登場する数十人を見ても十人十色。

 多くは時間つぶしに悩まされる。何もしないことに罪悪感を覚え、暇人に見られることに耐えられない。アルバイトや趣味で懸命にスケジュールを埋め、逆に時間に追われたりする。

 一方、カルチャーセンターで学び直したり、念願の畑仕事や炭焼きに挑んだり。会社を辞めた後に初めてやりたい仕事が見つかった人もいる。問題は夫の在宅が妻のストレスになること。自宅に代わる夫の2大拠点が図書館とファミレスだそうだ。

 著者に確固たる主張や結論があるわけではない。取材相手の言葉に相づちを打ち、首をかしげ、驚くのみ。この独特の距離感がそれぞれの人生の面白み、おかしみ、せつなさを浮かび上がらせる。読者は必ずやわが身を振り返り、しばし黙考することだろう。

 悪戦苦闘を含めて定年後のバラエティーに富む生きざまを見ると、定年は当人と社会を活性化する効果を持っているように思える。だとすれば、いっそ定年の時期を50歳に早めたり複数回にしたりしたらどうだろう。第三、第四の人生が味わえるのではないか。

(ポプラ社 1500円+税)=片岡義博

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