『レッドリスト』安生正著 このままだと人類は絶望します

 東京港区の病院。赤痢に集団感染した人々が押し寄せ嘔吐や下痢を発症している。もはや患者を横にするスペースもないところへ、さらに救急車が到着。ついには死亡者も出て病院は戦場のような様相を呈する。

 しかし惨劇は始まったばかりだった。六本木の路上では通りがかりの女性が異常発生したヒルに全身の血液を吸い取られて死亡。地下鉄のトンネルではネズミらしき動物に食い荒らされた男の死体が見つかる。そして誤って貯水池に転落した男は大量のミミズの群れに襲われて命を落とした。

 一体なにが起こっているのか? 厚生労働省の役人、感染症の専門医、生物進化学の学者らは、次々と発生する動物たちの反乱とも呼ぶべき事件の謎を解くことを課せられる。

 この地球に生命が誕生して以来、様々な種が新しく生まれ、進化を遂げてきた。繁栄に向かう種がある一方で、生存競争に敗れ絶滅を余儀なくされたものも数えきれないほど。人類は現在、全ての種を支配する特権を手にしているかのようであるが、それも永遠ではないはずだ。一連の異常事態は人類絶滅へのプロローグが始まったことを意味しているのか……。

 以上、駆け足というよりは猛ダッシュで粗筋を説明したので、本当はもっとおぞましいことがいくつも立て続けに起こるのである。それはこの本全体の三分の二を過ぎてもまだ終わらない。一連の出来事が何によって引き起こされているのかも、最後の最後まで分からない。読み手は著者の意図通りに、気持ち悪くさせられ、怖がらされたりする。

 しかしながら、いかにも役人然とした男が困難を前に成長していく姿や、病気の子どもを抱えながらも人類の危機に毅然として立ち向かおうとする女医のキャラクターはしっかり掘り下げられていて引き込まれる。その二人が心を通わせていくドラマには清清しさも感じられる。最後の自衛隊も登場しての“戦争”シーンや、人類の絶滅というこれ以上ないくらい大きな題材への決着の付け方も含めて、エンターテイメントの要素が全てぶち込まれた豪快なパニックサスペンスである。

<クレジット>

(幻冬舎 1500円+税)=日野淳

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