『<死者/生者>論』鈴木岩弓、磯前順一、佐藤弘夫編 声にならない声を聴く

 東日本大震災から7年。時を経ても被災者にはいまだ言葉にならない経験、口に出せない思いがある。本書は震災の現場に足を運んできた宗教者や学者、ケア従事者たちが宗教、民俗、思想史の視点から記した論考とコラムからなる。学術的な論文もあるが、多くは自らの体験や個人史に踏み込んで、声にならない声を伝えようとしている。

 「生き残ったことが申しわけない」「自分より大変な人がいる」と沈黙を守る被災者は少なくない。津波から逃げる途中、がれきの下敷きになって助けを求める近所の知人を置き去りにせざるを得なかった、そのことをずっと誰にも話せなかった、そう打ち明けた60代の男性は仮設住宅を訪れた僧侶の前で泣き崩れた。

 著者たちの試みは本書の副題「傾聴・鎮魂・翻訳」で表現される。すなわち被災者の言葉にひたすら耳を傾けること。葬儀や読経といった追悼の儀式を行うこと。言葉にならない思いをさまざまな形で表現し、被災者の経験に意味を付与すること。

 全盲のマッサージ師へのインタビュー記録が胸に残る。治療に訪れた被災者の多くは相手の目が見えないことや、うつ伏せ状態で話しかけられることに気安さを感じるのか、自らしゃべり始めるという。マッサージ師は問題を解決しようとは考えない。ただ体の凝りやゆがみをほぐしながら「私はあなたに興味がある」という気持ちで話を聴く。

 「被災者」ではなく「あなた」。人と人が向き合うときの精髄がそこにあると思った。

(ぺりかん社 3200円+税)=片岡義博

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