『浮き世離れの哲学よりも憂き世楽しむ川柳都々逸』坂崎重盛著 ニヤリとクスリの連続

 俳句ブームの勢いに乗り、川柳と都々逸(どどいつ)はいかがだろうか。庶民の暮らしに寄り添って、男女の心理や世の真理を粋なセンスと笑いにまぶした言葉遊びの世界。著者の軽妙自在な案内でひと巡りすると、ニヤリとクスリの連続でこれは愉快。

 川柳はおなじみだろう。「サラリーマン川柳」は毎年ニュースでも伝えられる。「壁ドンを妻にやったら平手打ち」。自虐ネタが大いにウケる。

 七七七五の二十六文字の都々逸は絶滅寸前か。お座敷芸として流行しただけに男女の性愛をおおらかにうたう。「三千世界の烏を殺し主(ぬし)と朝寝がしてみたい」「いけませんわの言葉をよそにひざから崩れる緋縮緬」。もっと露骨なものもあるが、色とエロばかりではない。

 「親の気に入りわたしも惚れる粋で律儀な人はない」。色恋と結婚相手の二律背反を達観した戒めの一節。「女房に叱られているいい姑」。川柳も味わい深い人生訓をサラリと言ってのける。「三年(みとせ)振り手のない父に抱かれて寝」。これは竹久夢二の反戦句だ。

 さて川柳と都々逸だけで十分楽しめるのだから、著者は終始盛りたて役に徹している。「ね、うまいでしょ」「うひゃー、これはツライですね」「わかりますかな、この意味」。合いの手にツッコミ、時にウンチクを傾けて、狂歌、春歌、短歌、替え歌も交えつつ機知と諧謔の世界へいざなう。

 気に入った川柳を一つ。「浦島の尻六角の形だらけ」。竜宮城までの長旅がしのばれる。

(中央公論新社 1700円+税)=片岡義博

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