『地図の進化論』若林芳樹著 デジタル地図が変える世界像

 インターネットですごく地図が便利になったね、という程度の話ではないようだ。地図の歴史において2005年のグーグルマップの登場は「進化」というより「革命」だと著者は力説する。生物の進化にたとえるなら動物種が急増したカンブリア大爆発に匹敵する、と。

 旧石器時代の岩絵から地図の進化をたどり、それが人間の心理や行動に与えた影響を考察した本書は、デジタル地図の登場からがぜん勢いづく。

 自在な縮尺変更、3D画像化、現在地から目的地への経路指示、音声案内……地図のデジタル化はそれまで一体化していた地理情報の「記録」と「表現」を分離して、大量の地理情報の貯蔵を可能にした。利用者の必要に応じて情報を取り出せるばかりか、利用者が情報を提供して地図作りに参加もできる。

 地図は私たちの世界像に決定的な影響を与える。道路沿いの風景を映し出すストリートビューやグーグルアースを使えば、世界の名所や絶景を眺め、博物館や競技場内をのぞくこともできる。カメラを搭載したドローンを地球上の好きな場所に飛ばせるイメージだ。

 半面、住所記入によりピンポイントで即座に地図を検索できるため、ネット利用に伴う「見たいものしか見なくなる」「物事を記憶しなくなる」といった現象がデジタル地図にも起こりうるという。

 となると、私たちの「視界」は一方で地球大に広がり、他方で従来よりも狭まるのか? 本書の問題提起を今後どこまで展開できるか。革命は進行中なのだ。

(創元社 1800円+税)=片岡義博

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