旅するレストラン、トラネコボンボン。「素敵な洋食屋さん、サーカスの売店、市場のお菓子売り、アフリカ料理店、アジアの屋台、街角のサンドイッチ屋、ロシアの列車の車内食堂」……。主宰である中西なちおは、その土地土地の新鮮な食材で、ここではないどこかを思わせるような、異国情緒溢れる料理をうみだす。
料理人であると同時に、絵描きでもある中西。ブログ「記憶のモンプチ」では東日本大震災以降、福島の復興のために活動する友人に向けて、7年近くの間毎日ひとつずつ動物の絵を掲載している。
そんな彼女の新刊は、屋号でもある猫がモチーフの絵本。「今日はニャンの日? 猫といっしょに季節のある暮らし」とある通り、365日の日めくりカレンダーのように、365匹の猫がその日その日をのびのびと謳歌する姿を描きとめている。イラストと一緒にあるのは、365の記念日や伝統行事、そして小さな物語。その物語は中西と猫の思い出のほか「友人の家の猫の話、どこかで暮らしている猫か、その家族の話。語り口は友人や私であったり、どこかの家の主人であったり、猫自身のときも」あるという。
例えばジョサイア・コンドルとブリジット・バルドー、吹石一恵と私の誕生日、9月28日のページにはこんな言葉が。
「9月28日 小さい家 気になるのはわかるけど それ、アリの家だから、壊しちゃダメだよ」
この日は七十二候で、生き物が土にもぐり冬支度を始める「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)」で、イラストと物語は、その暦をモチーフに広がった作品だそう。
不思議な気持になる本だ。365の記念日や暦には、現実のもののほかに、「猫の住む国で親しまれている」ものもあるらしい。ふわふわと、こことどこかを行ったり来たりするような感覚になる。
春夏秋冬と、その間にある春とも夏とも秋とも冬ともつかない、移りゆく日々の刹那の美しさを描いている本書。これまでも、そしてこれからのすべての日々が、またとない特別な一日なんだということを教えてくれる。「嘘の話と本当の話、想像の話と思い出の話」、それらはどれも、かわいくてせつなくて、やさしい空気に包まれている。
(誠文堂新光社 2400円+税)=アリー・マントワネット