『JKハルは異世界で娼婦になった』平鳥コウ著 魔王がいる世界で女子高生が春を売る理由

 主人公はJK、つまり女子高生。JKという言葉を一応説明しておかないといけないかもと思う場所で、この本を紹介するのは無理があるだろうか。しかもタイトルの『JKハルは異世界で娼婦になった』は、比喩でもなんでもなく、女子高生のハルは交通事故で死んでしまったと同時に異世界に転生、そこで生き延びていくために売春宿で働くのである。そしてハルが娼婦として実際に客を取る様子が、かなり仔細に描写されもするのだ。赤裸々というか明け透けというか、ここに書くわけにはいかない単語もそのまんまに。

 ちなみに飛ばされた先の異世界というものがどんなものかというと、「スマホどころかネットも電話も、そもそも電気もねぇ車も走ってねぇ」のであり、「魔王とかいうのが暴れていてモンスターとかも出るようなクソ田舎」だ。

「JK小山ハルの人生は、オタク臭いソシャゲみたいな世界で、ひっそりと春を売ることでリスタートするのだった」

 この一文が物語の初期設定を簡潔に表している。

 女子高生が異世界に転生、そこには魔王がいて、彼女は知らずに身につけていた特殊能力を使って……。というのは所謂ライトノベルと呼ばれるジャンルにおいてはお馴染みの形だろう。その分野に明るくない私でもそれくらいは分かる。しかし転生した先で娼婦になるというのは聞いたことはないし、ハルというキャラクターの造形にも新しさを感じた。彼女は元来の性格もあってか、自分の置かれた状況をそれほど悲観的に捉えていない。

「一回死んで飛ばされてしまった世界だし、帰れるような話も全然ないし、とりあえずがんばって生きていくしかない」

 ハルはそう考えて、客や仲間たちとともに楽しく生きているのである。東京の女子校に通っていた頃と同じとは言わないまでも、それなりに。

 さてこの小説をどう読むのか? もちろんそれは個人の自由なわけだが、今時のJKはこんなに強くて逞しいのか! みたいなオジさん目線で驚くのは純朴過ぎるし、ある種のポルノとして楽しむのももちろん適切ではない。

 もしハルが異世界に転生していなかったらという仮定がこの小説世界には成立しない以上、私たちに許されているのは、この風変りな物語設定に面食らいつつも、エッジの効いたハルの語り口に引き込まれ、彼女のこれからが気になってしまうという思いに任せてページを捲るのみだ。それだけで結構スリリングで楽しくて、このそれだけっていうのが実は大事な気がしている。

(早川書房 1300円+税)=日野淳

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