『それは宇宙人のしわざです 竜胆くんのミステリーファイル』葉山透著 宇宙オタクの高校生、地球の謎を解く

 事件が本当に「宇宙人のしわざ」だったら、それはもうミステリー小説からはみ出してSF小説になってしまう。そうであっても面白ければ別に構わないとは思うけれど、「竜胆くんのミステリーファイル」は、何事も「宇宙人のしわざ」ではないかと期待してしまうエキセントリックな高校生が、図らずも探偵役となって謎を合理的に解き明かし、結局は「地球人のしわざ」だったと幻滅するというかなり変化球、ギリギリのラインを行くミステリー小説だ。

 竜胆くんの相棒で、本書の語り手となるのは出版社に入って二年目という女性編集者・雛子。ファッション雑誌からオカルト雑誌に転籍させられてしまった彼女の最初の仕事が「宇宙人にさらわれた人特集」であり、その取材で二人は出会う。

 とにかくこの竜胆くんがおかしい。高校には通わず、引きこもり状態。しかも実家ではなく、一人暮らしをしている高級高層マンションの部屋から出てこないのだ。引きこもっている理由は宇宙人と交信するのに忙しいからで、高層マンションに住んでいるのも高いところの方が交信しやすいから。ちなみに高層マンションでの生活資金は竜胆くんが持っている特許の使用料によって賄われているらしく、その特許も宇宙人と地球人を識別するために開発したシステムが元になっているのだという。つまりは完全な宇宙人オタクなのだ。

 そんな竜胆くんと雛子が直面するのは、「メン・イン・ブラック」風の男によるストーカー事件や、田舎の田んぼに突如として現れたミステリーサークル事件など。竜胆くんは持ち前の宇宙人愛と、長らく宇宙人を探してきたことによって培われた桁外れの観察力によって、事件を解決に導くのである。冒頭でも書いたように、解決しても竜胆くんはちっとも喜ばないのだけれど。

 宇宙以外に興味がなく、他人と交わることを極端に嫌う竜胆くんだが、雛子とともにいくつかの困難を乗り越えることによって、ほんの少し人間として成長していくことになる。同時に雛子の方も、竜胆くんとの関わり合いを経て、宇宙の果てしない広がりに思いを馳せるロマンを知る。

 そんな清々しい青春小説的な味わいが、相当にエキセントリックな設定と掛け合わされることによって、独特な魅力を醸し出している一冊だ。

(幻冬舎 1400円+税)=日野淳

© 一般社団法人共同通信社