低予算映画にも助成金で良い波を

シンポジウム『インディペンデント映画ってなんだ!?』の模様=東京都千代田区の東京国際フォーラム

▼映画製作への文化庁の助成金は従来、製作予算1億円以上の作品には助成金2000万円、予算5000万円以上なら助成金1000万円が、審査を通れば出ますよ、という制度だった。2018年度は新たに、予算1500万円以上の低予算映画でも、助成金500万円を出すべく、文化庁の予算要求がなされていて、あとは予算案成立を待つことになる

▼一昔前は、製作費5000万円でも「低予算映画」の部類だったが、二極化が進み、DVDもあまり売れない時代になって回収が難しく、低予算映画の製作費はますます下がった。「作家性のある映画となると、製作費3千万円程度が多いのが日本映画の現状で、助成制度が現状とずれてしまっている」「助成金は広く見られる映画を対象にするだけでなく、これからの映画作家を育てるためにも出してほしい」、という映画人の声を、筆者も主に新聞紙面向けの記事で紹介してきた。

▼独立系(インディペンデント)映画の作り手らによるネットワーク、特定非営利活動法人「独立映画鍋」(代表:土屋豊監督、深田晃司監督)は昨年、映画祭「東京フィルメックス」と連携して、シンポジウム『インディペンデント映画ってなんだ!?』を開いた。

 冒頭、土屋代表が提起したのは、「(以前に)文化庁の人から『支援が欲しいと言うが、独立映画って何ですか?』『支援理由が映画業界以外の人にも分かるように整理してください』と宿題を出されたが、その答えはなかなか見つからない」という話だった。

▼ゲストの一人、五十嵐耕平監督(『泳ぎすぎた夜』)が、「作った映画と自分の実人生が切り離せないものがインディペンデント映画だと思っています。どこからお金をもらってこようが」と語ると、他の登壇者たちが膝を打った。同じくゲストの庭月野議啓監督(『仁光の受難』)が、「監督の意思が独立しているか。『早く作れ』『客が入るように』という横やりが入らずに。ということを五十嵐さんの話を聞いて思いました」と呼応した。深田監督(『淵に立つ』)は、「マイノリティーの価値観が可視化されているかは民主主義の条件。だから助成金を出すべきだ、というのは一つあると思う」と言い、多様な価値観に触れられる環境が大切なのだと訴えた。

▼ちなみに、映画祭の世界最高峰、カンヌ国際映画祭(フランス)の常連、ブリランテ・メンドーサ監督(フィリピン)は、昨年の東京国際映画祭で来日時、「自分たちがどんな人間で、どんな文化なのかを知ってほしいから、自作を海外に出すんだ」と熱っぽく語った。

▼文化・芸術支援の先進国フランスについて一例だけ挙げてみよう。2015年、ベルリン国際映画祭の短編コンペ部門に出品された瀬戸桃子監督(パリ在住)の『プラネット Σ (シグマ)』は、わずか12分間ながら製作費は約1400万円、その7割はフランスの国の助成金で、残りはフランスのテレビ局が負担した。一つ前の短編も同様に助成を受け、製作費は約1800万円だったという。ご本人から聞いた時、筆者は驚いて椅子からずり落ちた。魅力ある都市であり続けることとは、多彩な才能が集まる場、拠点であり続けることなのだと、あの国は知り抜いている。

▼一方、東京国際映画祭(TIFF)は、開幕式冒頭に首相や大臣があいさつに立ってしまう、恐らく世界でも珍しい映画祭だ。国はTIFFに支援をしているが、胸を張るほどの額ではないし、額がどうあれ、「金は出しても口は出さない」のが世界基準。その姿勢を世界へ明確に示すためにも、政治家が前に出るのはやめて、映画祭の代表が前面に出るべきだ。

▼助成がなくても映画製作や映画祭を持続できるなら、それがいいが、製作費20億円でも低予算の部類に入る米国は例外であり、活況を呈する中国も例外だ。中国と日本の合作、染谷将太や阿部寛出演の『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』の製作費は150億円超えだ。対して日本映画は製作費10億円でも十分「大作」と呼ばれる。

 昨年TIFFのコンペに『迫り来る嵐』を出品したドン・ユエ監督は「最近、中国の観客は、とにかくいい映画を見たいと思っている。全面的にマーケットが開放されて、さまざまなジャンルが生まれている。皆、より大きな可能性を求めているので、いい時期に出合った」と意気揚々だった。もはや大味なスペクタクルだけではない。『迫り来る嵐』はノワール作品。芸術貢献賞と男優賞(ドアン・イーホン)をダブル受賞した。

▼中国は世界の才能を求めていて、既に、園子温監督、三池崇史監督が中国映画を撮ることを現地メディアが報じている。また筆者は、中国からオファーがきたという別の日本人映画監督から、(そのオファーは受けなかったそうだが)提示されたという報酬の高額ぶりを聞かされて、驚きのけぞり、後頭部を壁に痛打した。

▼お金があるほど傑作になるというわけではないが、映画製作も映画祭も、どうしてもお金がかかる。かつてないほど人類が多種多様な映像を見ている現在も、「映画は世界の窓」であり続けている。日本は映画の価値をどう考えるのか。新進監督支援となる低予算映画への助成枠新設は、小さな一歩かもしれないが、良い波が起きるきっかけになるといい。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第106回=共同通信記者)

☆五十嵐耕平監督の新作『泳ぎすぎた夜』は、ダミアン・マニベルとの共同監督で、フランス・日本合作。舞台は青森。昨年のベネチア映画祭オリゾンティ部門に選出され、今年春以降、東京・渋谷のイメージフォーラムなどで順次公開。

☆深田晃司監督の新作『海を駆ける』は、インドネシアで撮影、主演はディーン・フジオカ。5月に全国公開。

☆『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』は2月24日全国公開。

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