『黙殺』畠山理仁著 報じられない候補者たちの悲喜劇

 選挙報道において無視されてきた「泡沫候補」の懸命で型破りな戦いぶりを追った2017年の「開高健ノンフィクション賞」受賞作。落選覚悟で挑戦する人間群像が無類に面白い。

 選挙の舞台裏は悲喜劇に満ちている。例えば2016年の都知事選候補者。消費者金融をはしごして供託金を集める、選挙カーやマイクを他の候補者に借りる、政見放送で放送禁止用語を連発する…。

 世間的には変人だったり困った人だったりするのかもしれない。だが当人たちは経済的、社会的リスクを冒し、真剣に世の中を良くしようとしている。だから著者は敬意を込めて彼らを「無頼系独立候補」と呼ぶ。

 その象徴的存在ともいえるマック赤坂への言及が3分の1を占める。「笑うことで幸せになろう」と訴えて数々の選挙に挑戦。ダンスやシモネタで街頭演説に臨み、エアロビ姿やスーパーマンのコスプレで政見放送に登場して選挙マニアの人気を集めてきた。言動はキテレツだが、恒久平和と非暴力を訴え、世の無関心と他人任せを撃つ姿勢にブレはない。

 著者は訴える。具体的でユニークな政策を打ち出す彼らをマスコミが黙殺するのは不公平であり、有権者の多様な選択肢を奪っている。政治離れが叫ばれる中、パワフルで魅力的な彼らを無視してはもったいない。選挙をもっと楽しもう、と。

 無頼系独立候補たちの世間体と常識にとらわれない生き方は底抜けに明るく、思いきり自由にも見える。だからだろう、読後にさわやかな感動を覚えた。

(集英社 1600円+税)=片岡義博

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