痛痒

 「痛痒(つうよう)」という言葉がある。痛は「痛み」、痒は「かゆみ」で「痛痒を感じない」と言えば、文字通り「痛くもかゆくもない」、要は「へっちゃら」のこと▲“病院”絡みの話で「痛くもかゆくも」なんて、何だかできすぎだと一瞬だけ考えたが、とても笑う気にはなれない。長崎市の小学校新校舎建設予定地で発見された日本初の西洋式近代病院「小島養生所」の遺構保存問題▲住民投票の実施を求める直接請求に基づいて提案された関係条例案が市議会で否決された。またか、である。住民投票を求める動きに繰り返し背を向け続けてへっちゃらの市と市議会▲過去の論議の積み重ねは重い、遺構の価値は理解しているから一部は展示する-が市の論法だ。ひょっとしたらその向こうには、住民投票をやっても結論は変えないのだから、投票は遠回りや寄り道でしかない…の真意も隠れているか▲だが「説得と納得」を放棄してしまったら民主主義にならない。投票で皆に聞いてほしい、という訴えを聞き流していることや、そのための努力を簡単に踏みつけにしていることへの自責の念や痛痒ぐらいは感じてほしい▲そんなの別に痛くもかゆくもない-のだろうか。でも、もしそうなら、皆の代表として物事を決める資質も適性も疑わしいと言わねばならない。(智)

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