第3部「沈黙」(5) 介護が“橋渡し”に 内情明かさぬ親たち

高齢者介護のための地域包括支援センターを拠点に、ひきこもりの人を支援につなぐ波田優子(仮名)。

 福祉団体スタッフの古屋隆一(ふるや・りゅういち)(41)がひきこもりの相談に乗ってきた東日本のベッドタウンは、開発から半世紀近くがたち、住民の高齢化が進む。介護に訪れる専門職が今、ひきこもりの人を支援へと橋渡ししている。
 
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 「心配な人を見かけたらその都度、古屋さんや自治体の担当者と情報を共有してきた」

 高齢者の暮らしを支える地域包括支援センター職員波田優子(なみた・ゆうこ)(55)の仕事は、自宅を訪問し、自力での生活が難しい人に必要な介護サービスを利用してもらうことだ。だが着任後、奇妙なことに気が付いた。明らかに介護が必要なのにサービスを使おうとしない人や、使っている場合でも、娘や息子の存在を隠そうとする人がいたことだ。

 調べてみると、自宅には40代や50代のひきこもりの子がいた。親は自分が死んだ後のことを考え、少しでも資産を残すため、支出を抑えようとしている。さらに気になったのは、各家庭を訪れるヘルパーや、周辺住民の間に「そっとしておいてあげよう」という雰囲気があることだった。

 「私たちが関わっていけば、きっと社会に戻れるよ」。波田は事例を挙げながら、ケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師らと話し合いを重ねた。ひきこもりの子がいる親は内情を明かしたがらない。だが近所の人は気付かなくても、介護に携わる人ならば親に寄り添える立場にある。一人一人の意識を変えたかった。

 ぎりぎりまで抱え込んだ末に生活が行き詰まり、初めて支援が始まるケースは多い。波田はそのタイミングだけは逃さないようにしているが「もっと早く動き出せないか」と思う。

 昨年、地元の町内会長や民生委員、医師ら約60人に参加してもらい、ひきこもりをテーマにした大規模な会議を開いた。

 民生委員からは「ひきこもりの人がいると分かっても、個人的なことなので周囲に話してはいけないと思っていた」、医師からは「治療以外に、本人を支える仕組みがあるとは知らなかった」といった声が上がった。

 波田は言う。「地域の中には、協力できる人がたくさんいる。福祉の関係者だけでなく、みんなで考えたい」

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 社会とのつながりを失った人や家族には多様な支援が求められる。そんな中、現状にいち早く危機感を抱き、地域ぐるみで取り組もうとしている町がある。(敬称略、文中仮名)

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