第4部「再起」(5) 新しい「仕事の形」 小さな役割つなぐ

自宅でネットオークションの画面を見つめる吉川修司。ひきこもりの人たちが自らの手で、新たな「仕事の形」を考えようという試みだ。

 壁掛け時計300円、ハイパワー除湿器800円…。A4サイズの紙に品目と落札額が並ぶ。吉川修司(50)は「まだまだビジネスと呼ぶにはほど遠いですよ」と控えめに話した。

 自身もひきこもり経験がある吉川が理事を務めるNPO法人「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」(札幌市)は、自宅から出られない人に手紙を送り、寄り添う活動をしている。2017年6月、インターネットのオークションを始めた。在宅でできる新しい「仕事の形」を考えようという試みだ。

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 吉川が運送関係の職場で周囲から孤立し、レター・ポストに電話で相談したのは30歳を過ぎたころ。理事長の田中敦(52)は「いじめを受けているような状態だった」と当時の印象を振り返る。

 退職後、部屋にいる時間が長くなり、集めていた映画雑誌や本をネットのオークションに出品するようになった。その経験が今回のヒントになった。

 協力を買って出たのは同市で会社を営む屋代育夫(67)。社員はおらず、庭木の剪定や除雪の注文を受けると、自宅にひきこもっている20~30代の男性に「やってみないか」と声をかけている。

 オークションの仕組みはこうだ。屋代が知り合いや得意先から不用品があると聞けば、連絡先を登録している男性らに回収・運搬を依頼。吉川が引き取り、写真や紹介文、落札希望価格を添えて出品する。ネットのIDやパスワード、入金口座はレター・ポストが管理。売り上げは当事者に配分する。

 10月中旬までに落札されたのは34品で総額約4万3千円。今は手探りの段階だが、田中は「小さくても一人一人が役割を担うことで、自分の存在を実感できる。課題を見つけ、行政への提言などをまとめたい」と手応えを感じている。

 一方、屋代をかき立てているのは、ある使命感だ。かつて学習塾を経営していた時のこと。不登校の子どもが集まるフリースクールで、高校2年の男子生徒がアルバイトをしたいと言った。だが1日で挫折し、そのままスクールにさえ来なくなった。人に不慣れで、自信を失ったのだろうか。

 「自分も脱サラをして自由に生きてきた。社会に相いれなくても、それぞれに別の“宇宙”があっていい。寛容さのない世の中を作ったのは、私たちの世代の責任です」(敬称略)

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