『クラシック音楽とは何か』岡田暁生著 ここまで言い切っちゃっていいの?

 「目からうろこが落ちる」「思わずひざを打つ」といった慣用句を総動員したくなるクラシック音楽の入門書だ。

 クラシックはなぜあんなに長いのか。どうして複数の楽章を順番に聴かなければならないのか。演奏のよしあしをどこで見分けるのか。そんな今さらの疑問について、サントリー学芸賞や吉田秀和賞といった輝かしい受賞歴を誇る音楽学者が、「ここまで言い切っちゃっていいの?」というほどの潔さで答える。

 まず自在な比喩が痛快だ。著者にかかればベートーべンの交響曲は「二〇〇年前の『We Are The World』」となり、「一九世紀版ムード・ミュージック」たるサロン音楽の名匠ショパンやリストは「リチャード・クレイダーマンの祖」となる。

 次に大胆な見取り図。クラシックを「ドイツ語圏の交響曲vsイタリア・オペラ」「ピアノ・ソナタvsサロン音楽」という「対立する二つの音楽文化」からなると捉え、それぞれ「芸術音楽vs娯楽音楽」「哲学書・長編小説vs短編メロドラマ小説」と位置づける。

 そして独自の見立て。例えば「名演」の定義だ。自分を消して作品に奉仕するのは単なる「いい演奏」であり、「名演」は自らが狂信的な確信を持つ作品解釈に聴衆も巻き込む魔力を持った演奏とする。

 安易な図式化や独断に基づく手引書ではない。歴史への洞察と豊かな学識・体験をもとにクラシック音楽の正体に迫る模索の記録である。いかめしいと思っていたその顔つきが、意外と愛嬌のある表情に見えてくる。

(小学館 1200円+税)=片岡義博

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